カイルの小冒険」カテゴリーアーカイブ

カイルの小冒険48

いつの間にやら世界は寒く白くなっています。
雪です。

「明けない夜は無いと言うけれど……貴方の物語はまだこれからです」

雪の様に白い女の人が、カイルの目の前に居ました。

「雪の館で……お会いしましょう」 

そうして、雪に溶け込むようにふうっと消えてしまいました。

カイルの小冒険47

ひとりになって、カイルはぶるっと身を震わせました。
何だか急に冷えてきた気がします。

「ねえ、魔法使いさんを知ってる?」

また知らない女の子が現れました。
温かそうな服に身を包んでいます。

「綺麗な金の髪と眼のね、夜空みたいに真っ黒なコートを着てて、とっても素敵な魔法を使うの」

その風貌が当てはまる人物に、カイルとしては心当たりが無いわけでも無いのですが、

「ピアノも弾ける様になったし、絶対お嫁さんにして貰うんだから!

年齢差があり過ぎます。
おそらく人違いでしょう。

カイルが首を横に振ると、少女はそう落胆した様子も無く、律儀にお礼を言って何処かへと行ってしまいました。

カイルの小冒険46

「いや、捨てられたワケじゃ…」

言いかけて、カイルは気付きました。

(この子、目が…)

「帰る家が無いのなら、わたしと来る? お父様がそこまでお迎えに来てくれてるの」

そう話す少女の背後から、何故か遠く重い地響きがしてきます。

「ありがとう。でも僕も帰るところだから」

何だか怖い予感がするし、だいたい帰る家もあるので、カイルは断りました。

「そう。気をつけてね。森は優しいけれど、怖い時もあるから」

既に散々怖い目に遭ってます。
いや、それも森のせいだけじゃ無いけど。

そしてカイルは、危なげない足取りで森の奥へと消えていく少女を見送りました。

カイルの小冒険45

館の外がこんなにも大変な事ばかりなのだとしみじみ思い返すと、カイルは何だか泣きたくなりました。
その様子を見た女の人の方が動揺しています。

「ちょっと、急に泣かないでよ、男の子でしょ?! ああもう、これじゃあたしが悪いヤツみたいじゃない!!」

ナイフを引っこめた女の人は、何故かぷりぷり怒りながら森の奥へと行ってしまいました。

黒猫と狼との追いかけっこの疲れも出て、カイルが半泣きで膝を抱えて蹲っていると、

「あなたも、森に捨てられたの?」

さっきとは別の女の子が、目の前に佇んでいました。

カイルの小冒険44

散々走り回り、さしもの吸血鬼も息を切らせて立ち止まりました。
恐る恐る振り返りましたが、どうやら猫も狼もうまく撒けた様です。
カイルは安堵の息をつきました。

「あぁら、可愛いお坊ちゃま♪」

目の前の声に慌てて顔を上げると、白い刃が煌めきました。

「いい身なりですこと。哀れな貧民に、何か金目のものをお恵み下さいません?」

笑顔だけれど、目は笑っていません。
今夜会う女の人達って怖い人ばかりな気がします。

カイルの小冒険43

「じゃあ僕はこの辺で失礼します」

カイルは二頭に挨拶をして、くるりと背を向け、その場から走り出しました。

ところが、どうしたことか黒猫がついてくるではありませんか!
当然のなりゆきで、黒猫を追って狼までもが追いかけてきました!

子供とは言え、夜の吸血鬼です。
並の相手では追いつけない筈ですが、この二頭はタダモノでは無かったみたい。
余裕でついてきています。

「やっぱりおうちを出るんじゃ無かった…!」

今夜何度目かの後悔を噛みしめながら、カイルはひたすら森の中を駆け回りました。

カイルの小冒険42

「俺の女を横取りするたぁガキの癖にいい度胸してるじゃねえか」

今度は、灰色の狼が現れました。
とんでもない殺気を放ちながらカイルを睨んでいます。
よく分かりませんが、とりあえずこの黒猫から離れた方が良さそうです。

カイルの小冒険41

「あら、可愛いぼうや」

カイルが歩いていると、今度は黒い子猫に出会いました。
とても人懐こい様で、カイルを見て逃げるどころか、擦り寄ってきます。

「ねえ、アタシを飼わない?」

カイルの小冒険

積極的過ぎます。

カイルの小冒険40

それでもカイルが動けないでいると、

「吸血鬼には沁みる歌だよなぁ……」

カイルの小冒険40

いつの間にか、傍にこれまた知らない男の人がいて、しんみりと歌に聴き入っています。
燃える様な赤毛の、ちょっとガラの悪そうな人です。

「お前、こんな子供なのに吸血鬼なのか。哀れだな…。俺の子供時代もそりゃあ悲惨だったけど……」

何だか長い自分語りが始まりそうだったので、カイルは早々にその場から立ち去ることにしました。

カイルの小冒険39

とても綺麗な歌にカイルは聴き入ってしまい、思わず白い女の人の元へ行こうとすると、
新規キャンバス
「この歌は子供には早い。永い夜を生きる、我らだけのものだ」

そう言って男の人に止められました。
その人は、長い髪を前にも垂らしているから右の顔が隠れています。