これは 一夜限りの審問

この村に派遣された審問官である貴男は、神父の告発を受けた一人の男の審問を始める。
果たして、金の髪と眼をした世にも妙なる美貌のこの余所者は、今や物言わぬ死体となってしまった村人の血を吸った吸血鬼なのか。

男の犯行を目撃したと確固たる自信を持って証言する神父。
もう吸血鬼騒動なんてうんざりだと非難する少女。
事件当時のことを証言する門番、パン屋、その他の村人達。

吸血鬼たらしめる証拠となるは、人が持たざる鋭い牙と爪があるか、陽光に晒せば苦しみ滅びるか、そして主の威光を表す十字を畏れるか。

ここは心強い同志や口を割らせる道具の揃った審問所では無い。
拷問も、審問官としての強権も使えない。
その上で、まだ若く経験も少ない貴男が、一癖も二癖もありそうなこの傲慢な男が吸血鬼である証明を、人ならば殺人者か否かを審問しなくてはならない。
もし間違えば、それは貴男にとって生涯取り返しのつかないとなる。
その覚悟が出来たならば、この男と向き合おう。

神が見守る聖堂で行われる、真夜中の審問会。
そこで裁かれるのは吸血鬼か、殺人者か、それとも―――